なんでも良しとしとくれよ。

そういうことです。

犬の記録 余談

亡くなるしばらく前、私は仕事に遅刻した。いつも通り、就業1時間前には到着する電車に乗り、時間になるまでドンキホーテを見ていた。腕時計を見たら5分前だったので職場に戻ると、ミーティングが始まっており混乱。腕時計が突然10分もズレていたようで、5分遅刻してしまった。職場に来て荷物を置いていった私を見ていた人達も居たので、来てるはずなのにいない、どこかで倒れているのかと話していたらしい。*1その後文字盤を直してみると動き出したので、ほっとして使い続けていた。ルナが亡くなった日に、秒針だけが先に進まず、その場で震えるように動き、動かなくなった。この腕時計は、双子座(私の星座)とスコティッシュテリア(ルナの犬種)がモチーフになっている珍しい特別な時計だった。ルナが居なくなった日にパタっと止まってしまった時計に、なんだかしんみりした。

 

亡くなってから、珍しく母がクリーニングに行ったら、レシートを見た店員さんが驚いていた。何かと思うと、レシートくじでお米が当選したらしい。500店舗あるお店で2000人だけ当たるそうで、キャンペーンが始まったばかりなので店員さんがビックリしたらしい。次は私がくじ引きで当たりを引いて、色とサイズを選べるタイツを3つ貰った。考えてみると、いつもルナにご飯をあげていたのは母で、ルナは私がタイツや靴下を履く姿を喜んでいたり、昔は靴下をかじって振り回すのが大好きだった。(私がタイツや靴下を履く=外に出る。ということは散歩に行ける!と分かっていたので喜んでいた)特に母はくじ運というものと無縁なので、もしかしたら天国から感謝してくれてるのかもね〜と話した。

 

ルナは従姉妹が産まれみんながバタバタしていた時にひっそりと産まれていた子だったので、誕生日があまりハッキリと定まっていなかった。おそらく9月20日産まれで、そのくらいの日に毎年ケーキをあげていた。今年15歳を迎えて亡くなり、火葬は友人に教えてもらった『しおん』という斎場にお願いした。しおんは、漢字で書くと紫苑。9月20日の誕生花で、花言葉は「追憶」「君を忘れない」「遠方の人を思う」と書いてあった。誕生花は国によっても様々らしいけれど、偶然ですごいな〜と思った。

 

いつかルナが死んだら、特に生きてる理由はないなと私はずっと思っていた。大好きな人たちがたくさんいても、私は特別に必要とされているわけではない。育てなければいけない子供もいない。ここに居る理由も、頑張って生きる理由もないと思っていた。ルナが衰弱して亡くなっていく姿を見て、なんて甘い考え方だったんだろうと痛感した。

手紙を書いていた時、緊急でお世話になった病院の先生から電話がかかってきた。「かかりつけの先生から亡くなったと聞いて、どんな最後だったかなと気がかりで…」とのことだった。亡くなった時はこんな感じで、みんなにも無事に会えたし、一緒に眠ったり、看取ることが出来たと伝えたら「ああ、それは、話を聞いた感じだと、彼女自身がタイミングを決めた感じだね。今だな、って。もうOKだなって、自分の中で決めていったんだと思う」と先生が言った。私が話しながら泣いているのは、伝わっていたと思う。「でも、命は消えてしまって肉体は朽ちてしまっても、魂は残るから。あなたたちが愛した時間とかかけた言葉は、彼女の養分になって生きていて、亡くなった事によって今度はその、かけたものたちがゆっくりあなたたちの生きる糧になるから、だから、大丈夫だよ」と先生は言っていた。私は会ったことのない先生なのに、心にしみた言葉だった。最後かかりつけのお医者さんに診てもらっていた時「何度も手術して、そのたびに復活してきましたもんね、本当に頑張って…」とぽつりと先生が言ったのも印象的だった。私たちの一方的な『生きててほしい』という願いに応えて、何度痛い事、怖い事を乗り越えてきたことか。本当に申し訳なくて、一緒にいてくれたことがありがたくて、幸せだったのに、事自分が生きるのに対しては逃げ腰なのだから、私はろくでなしなのだと思った。せっせと日々をこなしているだけの自分が情けなくて、でも落ち込む暇があるならとにかく働いたり、考えたり、動かないとともがいていたらあっという間に日が経ってしまい、ああ嫌だな、忘れてしまったらどうしよう、ルナのことを書き留めておきたい、と慌てて書き切った。ルナが寝たきりになったあたりで、ハッサンさんがDMをくれたのが、本当に嬉しかった。どうか看取ってほしいという言葉。先生たちもそうだけれど、言葉をくれる人はありがたくて、旅行や仕事を断る後押しになってくれた。どうもありがとうございました。ここを読んでいるかはさておきw

f:id:painful-ira:20221010125649j:image

本当は書きたくなかった。でも、鮮明に覚えていたい。10年後も30年後も昨日のことのようにルナを思い出せるように書いた。人の人生には稀に、目線が上がる瞬間がある。私にとって、今回がそれだった気がする。ほんの少しだけど、ほんの少しで、私のような人間には十分だと思った。ルナありがとう。

*1:理由を話したらルルルさんらしいねーはははと笑われたのだった…