なんでも良しとしとくれよ。

そういうことです。

嫌な話

それなりの年頃に、嫌なことがあった。

私の家の広い和室は襖でふたつに別れていて、奥の部屋には両親のベッド、手前の部屋にはゲーム用のテレビがあった。夜遅くに明かりが漏れていて、和室の襖を開けたら弟がヘッドフォンをしてゲームをしていた。その奥の部屋から、本当に小さな、母の嫌がる声が聞こえて、私は、悩んだ。

何かを嫌がっている。性行為な気がする。まともじゃない父親が、無理矢理しようとしてるんだろう。弟はヘッドフォンをしていて気付いていない。とめるべきなのかと悩んで、私は、その光景を見るのが怖く、気持ち悪く、部屋から出ようとした。弟も察知したのか、ゲームを消し、和室の明かりを消したら、ふすまの向こうから母は「逃げるな」と言った。

 

可哀想な人だと思った。義理の父は酔うと母の足や背中をベタベタ触る人で、夫はろくでなしで、子供は助けてくれない。私自身も、最低な人間だと思った。それと同時に、愛し合って結婚してもこんな末路になるのだと思ったし、欲望が湧いてくる限り、相手を尊重するのはきっと難しいのだと知った。

 

30になる前だったか、足の悪い祖父がわざわざ家まで来て、私の部屋を訪ねたことがあった。ベッドで寝ている私の横にきたので起きあがろうとすると、「そのまま横になってていい」と言った。何か話を聞くのかと思ったら、私の隣に横になり「キスしてくれ」「唇に」と言った。一瞬思考が固まって、私は起き上がって「なにふざけてるの〜」と足を叩いた。返事を耳に入れる前に部屋を出てリビングに行くと、祖父は階段を降りてきて、そのまま帰った。

気持ち悪いという感情だけではなかった。孫として愛された時間をすべて踏みにじられた気がした。いたたまれなくて泣いた。

 

弟がしたことも、まだ何も詳しい話を聞けていないけれど、それに近しいことを他人にしたのだと思う。その上、画像を撮って脅迫していた。ろくでなしにも程がある。パイプカットしてくれ。弟に関する事、頼まれ事などを粛々と調べたり手続きしたりをしているけれど、それは弟のためにしているのではなく、家族が困らないためにしているだけだ。

 

私は、やっぱり男の人が苦手だ。誰かと2人きりになったり、良い雰囲気になると、顔つきが変わる、あの瞬間がゾッとする。別に女だって顔つきは変わるけれど、とにかく性的な欲望を包み隠さずにぶつけられるのが怖いのだと思う。

 

この先、ずっと1人で生きて行ったほうがいいのかもと最近考えるようになった。恋人はいる。いるけれど、肉体関係はないし、それをずるずると続けるのは相手に申し訳がない。信じるのも大切だとは思う。でもそこまでして結婚したり家庭が欲しいかと考えると全くそんなことはない。この家庭に生まれて生きてきた私が『結婚すれば幸せになれる』と思うのはさすがにトチ狂っている。んなわけあるか。

みんな、どんな風に自分の未来を考えているのだろうと少し考えていた。そんなことを考えるのは野暮だ。計画的に堅実に歩む人間もいれば、周りの環境に流されてなんとなく決めて歩む人間もいるのだから。

他人の人生が読みたい。一般人の、顔も知らない人がいい。私の中にある一番強い欲望は、逃避欲かもしれない。