なんでも良しとしとくれよ。

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ささくれ

そろそろ我慢が出来ないなぁと思いながら、終礼を終えて一礼をする。

就業時間を切った後に自分が仕事をしていた周辺を掃除していたら、声を掛けられた。

「すいませんね」の言葉に「いいーえ」と答え、迷う。

私がこの仕事を始めたのと同じ時期に入社した社員さんだった。

最近は夜勤を担当していないので話すこともなかったけれど、やめてしまった社員さんの話を聞きながら掃除をした。

 

私が我慢出来ないのは、新人社員さんの仕事っぷりで。

新人と言えども社員なら、派遣の指揮はとるべきなのです。当たり前。

派遣は人の入れ替わりが激しいので、関わるラインは見切りを付けなきゃいけない。その日しか来ない人に難しいこと教えても仕方ない。

でも大きなミスにつながらないよう最低限の指導はしないと、派遣からしても、なあなあに仕事は出来ない。

 

新人社員さんは、声を出さない、急がなきゃいけない場面で急がない。焦らない。随分と余裕を感じさせる仕事ぶり。

走れよ、と思う。急がなきゃいけない時に走ってるところを見たことがない。

臨機応変な指示を出してくれないので、長く勤めている私が、仕事をしつつ独断で動いたりも。

どこにいるのか存在を示さないので、困った時に助けを求めるには頑張って探さなければいけない。

それはある意味、夜間に自分しか責任者がいないという自覚が足りないという事でもある。探す間は仕事の手も止まってしまうので生産性も落ちる。

物事の優先順位が多分うまく付けられていないのだと思う。初めて来た人たちにする説明をしないまま現場を後にしてしまって、私がやり方を聞かれて1から教えたり。

今月もそろそろ終わりなので、今現場で一番権力を持っていて、まともに話せる社員さんにちゃんと報告しなければと思っていたので、チャンスだった。

 

 

 

彼は年下。何気ない話から話始め、今の彼の立場の話などを聞いていた。

新人さんの件について、パートさんたちから散々に苦情を受けていて、精神がすり減っているそうな。

最近彼の先輩が辞めてしまったので、背負うものも多いし、出世も目指しているようなので弱音なんて吐いていられないんだろうなと感じた。

丁度私と彼の親世代がパートとして働いている感じなので、深く頷く話ばかり。

これくらいの年齢は更年期なのもあって愚痴が多く、些細なことまでぶちまける人間は少なくない…というか、体感では8割くらいはそんな感じ。

長い人生誰しもそういう時期があるわけで、悪いとは言えないけれど、受け止める側は一方的に蝕まれてしまうので

上手くかわしたり流したりもしつつ、取り入れるべき意見や見逃せないものはちゃんと指導しなければいけない。

彼も大変だなぁと思うと、新人さんに関する意見などとても言えず。

パートさんに聞かされてるなら十分過ぎるくらい伝わっているであろうと、それなりに留めておいた。

 

 

 

職場を後にして、友人と待ち合わせてファミレスへ。

お笑いの話をしていたら、友人が「なんでこんなつまんない後輩に、はっきりつまんないって言わないんだろうな」と言っていて

その言葉を聞いたら、何だかぽろぽろと涙が出てきた。

物凄く心配された。疲れてるんだなと言われた。

疲れてはいる。でも、そうじゃない、と思いながら心にしまった。

 

 

 

友人は、絵を描いたり、文章を書いたり、編み物をしたり、刺繍をしたり、そういった、いわゆる『ものづくり』をしない。

仕事も製造業の経験などがない人だ。だから伝わらないんだろうな、と思った。

今回はたまたま芸人さんの話だったけど、こんな仕事、ないよなぁと思う。

何時間も、何日もかけて頭を悩ませて、ネタを考えて、準備して、練習して、緊張して、舞台に立って、披露して

その瞬間に、面白いと拍手がわいたり、つまらないと切り捨てられたりする。

面白かったからまた来よう、とか、つまんなかったからもういいや、って。

それは実際にお笑いを見に行った自分がそうだったからそうであると書ける。それくらい客は冷静で、お金と時間をかける事に慎重だ。

だとしたら、芸人さんを支えるのって、ファンと同じくらい、同業者である芸人さんなのではと思う。

同じ世界に飛び込んで、同じように道を切り開いてる人で、頭を悩ませている人。

そういう人が、人のネタを見て「つまんない」なんて、そう簡単に言うわけがなくて

言うにしても相当気を使って言っていたり、関係性を踏まえて言っているな、と、私は、あくまでも第三者目線でそう見えている。

でもそれは、物を作らない人には伝わらない。

 

 

 

それは私も日常で普通に思う事で、絵が描けない人が頑張って描いた絵を「ヘタクソ」なんて絶対に言わない。

それは自分の絵が上手くないからという事実も勿論あるし、自分より上手い人が山のように居ることを知っているから、だけではなくて

自分がそういう道を通ってきた事を覚えていて、その人に描けて私には描けない絵があるという事を知っているからだ。

 

 

 

帰宅してお風呂に入りながら、ふと指を見たら、ささくれと切り傷だらけだった。

絆創膏を何枚も剥がし、足にあるたくさんの打撲痕を見ながら、今月は自分の容量に見合わない仕事量だったと感じ、ぼうっとする。

きっと私が許せなかったのは、気持ちだな、と気づいた。

派遣が必死に仕事している中、助けにも来ず

そんなに必死にやらなくてもーと呑気に仕事をする姿。

自分はここで何をしているんだろうと、思案しているのが丸出しの顔で、士気が下がる感じ。

そんな事はプライベートで考えなさい、と思うし

やっぱり、仕事として割り切ってきっちりやってる人を鼻で笑う感じが、許せなかったのだ。私は。

私の器も小さいものだな、と思いながら、ささくれを引っ張った。

うまくちぎれずに血が出て、浴槽に溶けた。

私の気持ちも、結局、誰にも口頭で伝えることのないまま、消えていくのだろうなと思った。