なんでも良しとしとくれよ。

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男女の友情

仕事を終えて自転車にまたがり道路へ出ようとすると、ライトに照らされている人が見えた。

時間は1時を過ぎていて、こんな時間に、と思いながら通り過ぎようとすると、「おーい」と声をかけられ、ぎょっとする。

よく顔を見ると知った顔で、「何してんの?」と少し笑ってしまった。

 

どこかへ行こうと車に誘う彼の言葉を断って、私の部屋に入れた。

職場からかなり家が近いのと、そもそもこの時間にやってる店がほぼないこと、実家に住んでいること、食事を取るつもりがない旨を話したら、了承してくれた。

コーヒーを頼まれたので二人分淹れて部屋へ持って行ったら、じーっと彼は私の手首を見ていた。

「仕事で?」

「いや、知らん人に掴まれた。ふりほどいた時に古傷がね。仕事しにくいから、テーピングしてるだけ」

意外と心配そうな顔をしていたので、仕事でどうしても手は酷使するので、念のためだとごまかすと納得してくれた。

「男女の友情って成立すると思う?」

「人による」

即答じゃんと笑われて、俺は?と聞かれる。

「友達じゃなくて、知り合いじゃない?」

「知り合いの男を部屋に入れるわけ?」

「そこは信頼関係の問題でしょ。実家だし」

なるほどねーという顔は、少し上の空な感じだった。

本当は何の話をしに来たの?と聞いたら、彼はモゴモゴと話だした。

 

昔恋人に言われた言葉が、極たまにぶり返して、眠れなくなるそうで

今日も早くに布団に入ったのに、眠れなくなり外をウロついていて、夜勤をしている私の存在を思い出したんだそう。

話すだけでも良かったんだけど…と申し訳なさそうにするので、別にこっちは平気だけど、と伝える。

「人に言われて忘れられない言葉とかある?」

 

 

腕を組んで少し考えて、ふと思い出したことがあった。

「中学の時に好きな先生に言われたのは覚えてる。『あなたは周りを見て先を読んでる。すでに人生に必要な心得はあるから、誰よりも厳しい人生になるかもしれないけど、必ず良い人たちに恵まれる』って言ってくれた」

めっちゃいいやつ〜!!と彼が大きな声を出すので、しーっ、とする。親たちはもう眠っているのだ。

「見越してくれてたんだけどね。そういうこと言われると、逆に不安になるタイプだって、分かってくれてた。それ言われてから本を読むペース上がったから。

傷ついたのもあるよ。付き合ってた人に『ルルルといると俺がだめになる』って。

言われたことに傷ついたのか、言わせたことに傷ついたのか分かんないけど」

「だから恋人作んないの?」

「だからってわけじゃないけど。他人とずっと一緒にいるのはあまり向いてないと思う」

冷たい女、と言うので、冷たい女だったら夜な夜な付き合いませんよこんな話にー、と口答えをしてやった。

「お前、本当に28なわけ?考え方とか、悟ってるじゃん。老けてない?」

つくづく失礼だなぁ…と思いつつも、考える。

それは違うよ、と言ったら、彼は首を振りだしたので、そのまま続けた。

「まぁ、老けてるとは言われるわ。顔がね。年下に見られたことないし。

さっきのみたいに、よく目上の人に褒められてはいたけど、悟ってるのとは違うよ。悪い意味で、諦めてるんだと思う。人と自分は違うとか。本当に悟ってる人って、もっとこう経験豊かだよきっと。人と沢山関わってる」

「まあ…お前友達いないしな」

「うん」

ふふっと彼は笑う。

彼は知り合いも友達も多いので、そもそも私になんて会いにくる必要なく、呼べば飛んできてくれる人くらいいそうなのにな、と思った。

それでもなんとなく私を選んできてくれるのだ。

「なんで今日私だったの」

「あんま、弱音吐ける相手がいないから。みんな子供とかいるしな、迷惑だろ夜中に電話とか呼び出すの」

彼は私と違って、育ちが良い。

それなりにお金のある家に生まれ、それなりに大きな家で暮らし、それなりのプレッシャーを受けながら育ち、そのまま心を壊した。

『もし心を壊さなかったら、人の気持ちを深く考えるなんてしなかった』と昔彼が言っていたのは、強く印象に残っている。

傷を受ければ、人は変わる。

でも、受け止め方を考えて行動しないと、変わることは出来ない。

「わがままになって良い時もあると思うけど。

その忘れられない言葉も、必要だったんじゃないかな。人生に」

「自分のこともそう言える?」

「うん。間違ったこと言われたわけじゃないからね」

吸っていい?と彼はタバコを取り出す。

外で、とお香用に置いてある灰皿を持ってベランダに出る。

月が綺麗だった。でも、想像より寒くなっていて、上着を彼に着せた。

 

じっと見ていたら、「吸ってみる?」とタバコを差し出された。

彼が吸ってるのはマルボロの赤。周りでよく見るメビウスやセブンスターではない。

でも懐かしい銘柄で、吸いかけを手から奪った。

「どう吸うんだっけ」

「口から肺に入れるイメージ。深く奥まで。難しいと思うけど」

言われた通りにしたつもりだけれど、勿論うまくいくはずもなく、ただ苦く、舌がざらついた。

「これがいわゆる、ふかすってやつ?」

そう。でもちょっと吸えてたようにも見えたよ、と答えながら、そのタバコをまた吸い始める。

吸い終わったら帰るかな、と呟いた。

「えっ、帰るの?泊まらないの?」

「…は?それどういう意味?」

時間はもう3時近かった。少し眠たげだったので、このまま寝かせて仕事に向かわせるべきだと思っていたことを伝えると、お前はアホか、と一刀両断された。

「お前が自分のことどう思ってても、俺には関係ないんだよ。

太ってよーが可愛くなかろうが、お前は女なんだから、自然にこのまま男を帰らせるのが普通なの!

やろうと思えば力づくでも出来るんだからさぁ…そういうこというの、危ないから」

なるほどなーたしかになーと思い、うーん、と言うと、うーんじゃないの!と叱られた。

「でも男女の友情、あると思わないの?」

「俺からしたらないな」

「えーっ!じゃあ私は?」

「知り合い」

「知り合いなら別に泊まってもいいじゃん」

「だから…単純にそうならないのが男だから…お前本当に28なの?」

ちょっと彼が笑うので、私も少しだけ笑ってしまった。

「そうだけどさ。興奮するしないあるでしょ?」

「まぁ…経験不足なんだから、そのままガードは固くていいけど、付け込まれないようにしないとダメだからね」

「おかあさんみたい」

「…うん…ま、そうね」

はーやれやれ手間のかかる28歳だこと…とつぶやきながらタバコを吸っていた。

タバコを吸っている人を見るのが好きなので、じっと見ていた。

男女の友情は、結局人それぞれなのかぁ、残念だなぁと思いながら眠った。

彼が言われて傷ついた言葉を私が聞かなかったことを、大人だと言ったように

私は彼が何もせずきちんと帰ることを大人だと言ってあげた。

私は寝坊してお弁当が作れず、彼はきちんと起きて仕事に行った様で、みんな大人なところと子供なところがあるんだなぁと、少し可愛らしく感じた。